分散共分散行列に基づく推定値の計算
分散共分散行列に基づく推定値の計算
生データを持たない方法
IBM SPSS Amosでは、分析に使用するデータソースとして、SPSS形式(.sav)、Excel形式(.xls,.xlsx)、Text形式(.txt,.csv)などの一般的な形式に対応しています。これらのデータファイルは、列に観測変数名、行にケースを入力する生データの形式を基本とします。例えば、100人分の分析データがある場合は100行入力されたデータファイルを用います。この入力形式は、多くのデータ分析ソフトウェアに共通したデータの持ち方です。
Amosでは、観測変数の分散と共分散の情報に基づく方法でも分析可能です。生データそのものを持つ必要がなく、データ数(Amosでは標本数と表示されます)や分散共分散行列または相関行列などの最低限の値さえあれば推定値や適合度の計算を行うことができます。分散共分散行列や相関行列をSPSSにそのまま入力することはできないため、特殊な変数名を使用して値を入力します。
1分散共分散行列の場合
対角に分散、非対角に共分散を入力
「rowtype_」と「varname_」の2つの特殊な変数名を使用して値を入力します。「rowtype_」に指定できるのは、共分散(cov)、相関係数(corr)、平均(mean)、標本数(n)、標準偏差(stddev)です。
分散共分散行列を入力する場合
- 1列目のヘッダには特殊変数名として「rowtype_」と入力します
- 2列目のヘッダには特殊変数名として「varname_」と入力します
- 特殊変数名の末尾にはアンダーバー( _ )が必要です
- 3列目以降のヘッダには観測変数名を入力します
- 対角に分散、非対角(下三角)に共分散を入力します
2相関行列の場合
対角に1、非対角に相関係数を入力
相関行列を入力する場合
- 1列目のヘッダには特殊変数名として「rowtype_」と入力します
- 2列目のヘッダには特殊変数名として「varname_」と入力します
- 特殊変数名の末尾にはアンダーバー( _ )が必要です
- 行列は、対角と非対角(下三角)に相関係数を入力します
- 相関行列を入力する形式の場合は、「stddev」(標準偏差)の入力も必要です
3分析用のデータファイルを選択する方法
対角に1、非対角に相関係数を入力
データファイルの選択
- 「ファイル」メニューから「データファイル」を選択します
- 「ファイル名」ボタンをクリックします
- 分析に使用するデータファイルを選択します
- 「OK」ボタンをクリックして「データファイル」ダイアログボックスを閉じます
以上によって、通常の生データを扱う場合と同じように、分散共分散行列や相関行列などの値を入力したファイルを使用して分析を行うことができます。パス図の作成方法や、適合度の計算、テキストマクロによる適合度指標の表示などは、生データを用いて作業を行う場合と同じ要領です。
このようにAmosでは、生データが手元になくても分散共分散や相関の情報さえあれば推定値を計算したり、モデルの適合度を確認することができます。第三者が行った分析や過去の研究を再分析する場合など、観測変数の分散共分散行列や相関、標準偏差、標本数(ケース数)の情報があれば分析を行うことができます。なお、平均構造モデルでは平均値の値も必要です。
Amos活用上のテクニックの1つとしてぜひ押さえておきたいTIPSの1つです。目的や使い方、用途に応じて、IBM SPSS Amosを有効にご活用ください。
参考文献
- IBM SPSS Amos User Guide.pdf
- 豊田 秀樹,共分散構造分析 入門編―構造方程式モデリング,朝倉書店,1998
- 豊田 秀樹,共分散構造分析 Amos編―構造方程式モデリング,東京図書,2007
- 小塩真司,はじめての共分散構造分析(第2版)~Amosによるパス解析,東京図書;第2版,2014